サイトリニューアルの進め方
Webサイト制作のオリエンに呼ばれると、業者選定のためにデザインを求められることがよくあります。RFP(提案依頼書)を見ると「自社の魅力が伝わるデザインにすること」などと書いてある。しかし制作側とすると、これではなかなか提案しづらいし、これで制作会社を選んでもサイトとしてはうまくいかないのでは、と思ってしまいます。たとえとすると、会社の採用でイケメンを揃える感じでしょうか。もちろんイケメンが必要な業種や職種はあるでしょうが、顔が良ければなんでもできるというわけではありません。あたりまえのことですが、Webサイトにしても人材にしても、どういう目的のために何をしてもらうか、そのためにはどういうものが適しているかを考えなければいけません。
この記事ではWebサイトをリニューアルするにあたって、どういう流れで進めるのがいいかを、制作者の立場から説明します。流れは業界や内容によって異なりますが、今回はBtoB企業がコーポレートサイトをリニューアルする場合の流れについて書いていきます。
全体の流れ
全体の流れを大きく「業者選定」と「業者選定後」に分け、さらに「業者選定後」を「戦略設計フェーズ」「制作フェーズ」「運用フェーズ」の3つに分けています。失敗するWebサイトリニューアルの原因としては、このうち「制作フェーズ」しか考えていないということが挙げられます。もちろん、すでにサイトの戦略設計が明確になっており、今回のリニューアルはそれを踏襲するということもあるでしょうが、あらためて確認して損はないでしょう。
また検索エンジンからのキーワード集客も考えるのであれば、戦略設計フェーズは不可欠です。
業者選定の前にやるべきこと
どのようにリニューアルしたいかも決まっていない段階で制作会社を選ぼうとしても難しいので、まずは社内で話し合いを行いましょう。広報部や総務部、経営企画部だけではなく営業部や商品部など、各部門の代表者を集めてワーキンググループを作ることをおすすめします。ダメなパターンはシステム部門に丸投げすることです。WebサイトはたしかにITを使いますが、行うことはマーケティングやセールスです。IT部門も巻き込むのはいいですが、主管にするのはおすすめできません。
ワーキンググループでは現状の課題やリニューアルの目的、予算、スケジュールなどを話し合い、その内容をRFP(提案依頼書)としてまとめます。RFPというのはもともとシステム開発で使われていた用語なので馴染みがないかもしれませんが、ようはオリエンシートです。どういうことが課題で、どういうことがしたいのか、提案してほしい内容を説明するときの資料がRFPです。RFPができたらつぎに制作会社を選定します。
制作会社の選びかた
BtoBのコーポレートサイトの場合、戦略設計フェーズをすっ飛ばしてて制作会社に依頼し、結果として失敗するというケースが非常によくあります。繰り返しになりますが、重要なのは戦略設計フェーズです。制作会社を選ぶときには、この戦略設計も含めて依頼できるかどうか、また費用はどのくらいかかるかを確認しましょう。制作会社によっては、デザインがメインで戦略設計はやっていないというところも多くあります。どの範囲までお願いできるかを確認しましょう。
自社で戦略設計と運用を行い制作だけ依頼したい → デザイン系の制作会社でOK
戦略設計も制作も運用も依頼したい → まとめて依頼できるか要確認
自社で戦略設計を行う場合には、それをまとめたものをRFP(提案依頼書)としてまとめ、制作会社に依頼します。戦略設計もまとめて依頼する場合でも、少なくとも下記のサイトの目的とリニューアルの背景と目的は文章化したうえで依頼したほうがいいでしょう。
戦略設計と制作とを別の会社に発注するということもできますが、3つのフェーズは連動しているので、できれば同じ会社に依頼することをおすすめします。
見積依頼
制作会社に依頼した時点で概算の見積書をもらいます。項目として制作だけではなく戦略設計と運用も含めて入れてもらうことが大切です。そこがおざなりになると、のちのちトラブルの原因となります。必ず依頼する範囲とその部分の費用を出してもらい、全体の費用感を確認します。
01 戦略設計フェーズ
- サイトの目的を再確認する
- ターゲットを決める
- 集客するキーワードを決める
- 現状の把握とゴールの設定をする
- プロモーション方法を決める
02 制作フェーズ
- サイトマップを作成する
- コンバージョンポイントを決める
- ワイヤーフレームを作成する
- CMSでの更新範囲と方法を明確にする
- キャッチコピーを決める
- デザインをする
- サイトを制作する
03 運用フェーズ
- Web広告でプロモーションを行う
- 記事コンテンツを追加する
- サイト分析をする
- ゴール達成まで改善を繰り返す
戦略設計フェーズ
戦略設計から制作会社に依頼する場合でも、ある程度は自社でまとめてから制作会社と打ち合わせをするほうが時短になります。まったくわからない!と思っても、そのわからないことを制作会社に伝えることが大切です。制作会社はWeb制作のプロでも、会社のこと、事業のこと、顧客のこと、競合のことなどはわかりません。戦略設計は自社のことをよく知っている発注者と、Webマーケティングのことをよく知っている制作会社との共同作業です。
サイトの目的を再確認する
RFP(提案依頼書)にはリニューアルの背景と目的が書いてあることはあるのですが、サイトの目的が書いてあることはまれです。「情報が古くなっているから」「新しい事業部ができたから」「スマホに対応していないから」「来年に周年を迎えるから」というのはすべてリニューアルの背景であって、サイトの目的ではありません。
BtoB企業のコーポレートサイトでは、会社のホームページはあってあたりまえのもので、そもそも目的は必要ないと考えられているのかもしれません。しかし目的が不明確であれば施策もバラバラになってしまいます。まずはサイトの目的を明確にすることが重要です。サイトの目的としては、以下のようなものがあります。
- 新規開拓(リード獲得)
- 会社、商品、サービスの認知度アップ(ブランディング)
- 売上アップ(EC)
- 実店舗への誘導(O2O)
- 既存顧客のリピートオーダー(顧客生涯価値の増大)
- 既存顧客へのアフターフォロー(カスタマーサクセス)
- 社員の採用(リクルーティング)
- 営業ツール化(リアル営業支援)
BtoB企業のコーポレートサイトであれば、リード獲得、ブランディング、既存顧客へのアプローチ、採用、営業ツール化などがサイトの目的になるでしょう。
ターゲットを決める
サイトの目的を再確認したら、次はサイトのターゲットです。新規開拓であればどういうリードを集めたいのかを明確にする必要があります。マーケティングでは「ペルソナ」を決めたりしますが、BtoBであればあまり細かい属性は決めず、エリア、業種、ニーズなどを設定します。ターゲットを決めるとなると、できるだけ広くたくさんの見てほしいと言われることがありますが、それではマーケティングができません。「気密性に優れたプラスチック加工業者を探している全国のハウスメーカー」というふうに具体的にすることが重要です。
サイトの目的が採用なのであれば、新卒なのか中途なのか、理系なのか文系なのかを明確にします。
集客するキーワードを決める(新規開拓が目的の場合)
ターゲットが決まったら、そのターゲットがどういう検索をしたときに見つけてほしいかを考えます。上記の例でいえば「プラスチック加工 気密性」となります。「プラスチック加工」で検索上位になることが理想ですが、それはなかなか難しいので、それと合わせて検索されるキーワードを見つけなければいけません。このときの「プラスチック加工」をビッグワード、「気密性」をミドルワードと呼んだりします。
このミドルワードというのは、ようするに会社の強み、競合との差別化ポイントです。マーケティングでUSPという考え方がありますが、自社の強みを言語化できていないWebサイトでは、リニューアルはうまくいきません。
現状の把握とゴールの設定をする
現状の把握というのは、数字の把握です。リニューアル前とリニューアル後の評価をするために、リニューアル前の数字を明確にしておきます。さらに、リニューアルすることでその数字をどうしたいのかをゴールとして設定します。すでにGoogleアナリティクスを導入しているのであれば、訪問数や問い合わせ件数は把握できていると思いますが、集客するキーワードでの現時点での表示順位などはしっかりと確認しておきましょう。現状のWebサイトで検索順位を知りたい場合には「SEOチェキ!」などのサービスを利用します。
もっとも重要な指標はコンバージョンなのはなのは言うまでもありません。サイトの目的が新規開拓であれば、問い合わせ数などの現状とゴールを明確にします。サイトの目的がブランディングやカスタマーサクセスの場合はコンバージョンが設定しにくいのですが、重要なページのページビュー数などをコンバージョンとして設定するといいでしょう。
プロモーション方法を決める
戦略設計の段階で、プロモーションの方法を決めます。リニューアルに合わせて訪問数を増やしたいのであれば、Web広告は必要です。どのような広告を使うかはのちのち具体的に決めるとして、広告予算をどのくらいにするか、そもそも広告が必要なのかどうなのか、ある程度は決めておきましょう。
制作フェーズ
戦略設計フェーズは制作会社との共同作業ですが、制作フェーズは制作会社がリードしてくれます。これまでの方針をもとに現状のWebサイトをどのようにリニューアルすべきなのか、制作会社からの提案をチェックしていきます。
サイトマップを作成する
ページ構成を表すサイトマップを作成するときにもっとも重要なことは、会社として出したい情報を並べるのではなく、ユーザーが知りたい情報を並べることです。戦略設計で明確にしたターゲットとキーワードをベースにサイトマップを作っていきます。
悪い例として、たとえば「事業紹介」というページに「システムインテグレーション事業」「システムサポート事業」という2つの事業がぶら下がっているようなケースです。おそらく社内の事業部がこのように分かれているのでしょうが、ユーザーが知りたいのは社内組織ではなく、どういうサービスをしているのかということです。
できるだけユーザーの視点で、どういうページ構成になっていればわかりやすいのか、戦略設計で決めたキーワードで検索したときにどういうページがヒットすればいいのかを考えます。
コンバージョンポイントを決める
サイトマップができたら、作成したページのどこにコンバージョンポイントを設定するかを決めます。「お問い合わせ」が唯一のコンバージョンであればそこがコンバージョンポイントとなりますが、たとえば商品紹介のページに商品ごとのフォームを設置するとか、カタログダウンロードをコンバージョンにするとか、お役立ち資料のようなホワイトペーパーのダウンロードをコンバージョンにするのか、そういうリード獲得の機能をもたせるページを決めていきます。
サイトの目的がリード獲得ではない場合でも、どのページを見てほしいのか、どのページが見られることがサイトの目標なのかを明確にすることが重要です。
ワイヤーフレームを作成する
ワイヤーフレームというのはWebページのレイアウトです。ページの見やすさや情報の探しやすさなど、いわゆるユーザビリティを高めることも重要ですが、コンバージョンを増やすためにはどういうナビゲーションがいいのか、どこにボタンを置いたらいいのかを決めていきます。具体的なデザインの作業がはじまってからレイアウトを変更すると追加費用がかかるので、ワイヤーフレームの段階でサイトのイメージを確定させましょう。
また更新システム(CMS)を導入する場合には、この段階でどの部分がどのように更新できるのか、確認しましょう。
キャッチコピーを決める
キャッチコピーはWebサイトのとても重要な要素です。すでに知名度が高い会社は別にして、新規開拓を目的にするのであれば、トップページのファーストビューでどんな会社なのか、何をしている会社なのかを伝える必要があります。よくキャッチコピーとして会社の理念や社是を書いているサイトを見かけますが、絶対にやめましょう。「想いをカタチにする企業」のようなふんわりしたものではなく、明確にわかりやすい言葉を使うようにします。どこの会社でも使えそうな曖昧なものではなく、かっこよくないかもしれませんが、「極小の金属部品加工ができます」のようなストレートなもののほうが伝わります。
デザインをする
ようやくデザインの工程です。これまでのプロセスを経てくれば、どのようなデザインにすればいいか、方向性は見えていることでしょう。かっこいいデザインだからといってそれだけで受注が増えるということはありません。サイトの目的やターゲット、キーワードを踏まえたうえで、適切なデザインを行います。なんとなくかっこいいからという理由で、動画を使いたい、写真のスライドを使いたい、アニメーション効果を使いたい、とオーダーするのはやめましょう。
サイトを制作する
制作会社は決まったデザインをもとに「HTMLコーディング」という作業をしていきます。これはデザイン段階の画像をWebサイトとして表示するためのHTML言語というコードに落とし込む作業です。更新システム(CMS)を導入する場合には、テンプレートを作成し、そこに原稿を当てはめていきます。
発注側では制作会社に原稿を提供します。入稿が遅れればそのまま納期が遅れてしまうので、早めに用意しましょう。撮影や原稿作成もあわせて依頼している場合には、都度確認を行います。
公開前には更新方法の講習をしてもらい、公開後すぐに更新がはじめられるように準備しましょう。
運用フェーズ
リニューアル作業としては公開がいったんの区切りになりますが、Webサイトとしてはここからが本番です。戦略設計で決めたゴールに向けて、着実に成果が出ているのかを確認していきます。
Web広告でプロモーションを行う
戦略設計で集客キーワードを考え、それに合わせてコンテンツを作ったとしても、検索ですぐに上位になることはありません。コンテンツを活用して自然検索で上位表示されるためには、数カ月はかかります。なので、すぐに訪問数を増やしたい場合には、Web広告を使うことになります。検索からある程度の集客ができる状態になれば広告はやめてもいいかもしれませんが、せっかくリニューアルしたサイトなので、しばらくはWeb広告を活用しましょう。
記事コンテンツを追加する
制作フェーズのコンバージョンポイントをコラムやFAQ、実績などの記事コンテンツに設定した場合、定期的に記事をアップしなければいけません。質の低いページを量産するのはよくないのですが、ページを追加していくことで、それがサイトの資産として積み上がっていきます。
サイト分析をする
ほとんどのWebサイトではGoogleアナリティクスを使ってサイト分析をしていると思いますが、制作会社に任せっきりにするのではなく、Web担当者としてその情報を見られるように共有してもらいます。はじめのうちは毎日でもデータを見ながら、順調に推移しているかを確認するようにしてください。
ゴール達成まで改善を繰り返す
戦略設計でどれだけ綿密に設計し、それをもとに制作したとしても、思ったような成果が出るとは限りません。むしろ狙い通りにコンバージョンが増えるのはまれです。重要なのは、小さな改善を繰り返しながら、ゴールに近づいていくことです。
終わりに
BtoB企業がコーポレートサイトをリニューアルする場合の流れについて書いてきました。もちろん業種や制作会社の役割などによって流れは変わってきますが、共通していえるのは、戦略設計が重要だということです。これはBtoCでも同じです。サイトのリニューアルには大きな費用がかかります。しっかりと戦略設計を行い、効果が出るWebサイトにしましょう。
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