大学の多言語サイトについて考える
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大学の多言語サイトの現状
多くの大学のWebサイトでは日本語ページだけではなく、英語ページや中国語ページがあり、いわゆる「多言語化」されています。何百ページの日本語の内容がそのまま英語でも提供されていたり、何ヶ国語にも翻訳されていたり、自動翻訳サービスを使っていたり、1ページだけだったり、多言語化といっても内容は大学によってさまざまです。
多言語化の内容
- サポートする言語数(いくつの言語に翻訳されているか)
- 翻訳対応範囲(日本語にたいしてどこまで翻訳されているか)
- 翻訳方法(人力翻訳か機械翻訳か)
留学生30万人計画というのがあった
大学関係者であれば覚えていると思いますが、15年ほどまえに文部科学省の「留学生30万人計画」というのがありました。2020年をめどに30万人の留学生の受入れを目指すというもので、国から大学にたくさんのお金が降りてきました。大学では留学生を受け入れるためのコースの新設だったり、短期留学や交換留学、ダブルディグリーなど留学制度の見直し、受入体制の充実など、多くの取り組みが行われ、その一環として、Webサイトの多言語化も進められました。私も当時は多くの多言語サイトを制作しました。
あれから月日が流れ、新型コロナウィルスの流行もあり、留学生をどんどん受け入れようぜ!という雰囲気ではなくなりました。あのとき作った多言語サイトはどうなっただろうと見てみると、ほそぼそと内容を更新しながらいまだに現役のものもあれば、まったく更新されずに放置されているもの、すでに閉鎖されたものなど、いろいろありましたが、当時よりさらに充実したものはありませんでした。
多言語サイトは運用が大変
多言語サイトは制作するのは大変ですが、もっと大変なのが運用です。日本語をまるまる翻訳して多言語化した場合、仮に4言語のページがあるとすると、日本語で発信してから4言語に翻訳し、4言語のページを更新しなければいけません。CMSで更新しやすくなっていたとしても、かなり大変な作業です。30万人計画のときに大きな予算をかけて大規模な多言語サイトを作った大学は、次年度以降に途方に暮れたのではないでしょうか。これどうやって運用していくんだよ、と。
その点、自動翻訳であれば更新の心配をする必要はありません。毎月何万円かの費用はかかりますが、日本語で発信した内容がリアルタイムで翻訳されます。ただし自動翻訳はSEOがぜんぜんダメという致命的なデメリットがありますし、画像は言語ごとに作らないといけなかったり、名前などは翻訳辞書に登録しないといけなかったりと、メンテナンスが地味に面倒だったりはします。
その多言語サイトは不要
日本語サイトの翻訳したものが多言語サイトなのか
私は大学の多言語サイトはいらないと思っています。それはほとんどの多言語サイトが、日本人向けに作られている日本語サイトを翻訳したものだからです。たとえば金沢大学の沿革のページには「1862(文久2 )、加賀藩が種痘所を設置。現在の金沢大学(医学類)の源流となる」という記述がありますが、これを英語や中国語に翻訳することに意味はあるのでしょうか。まったく意味がないとはいいませんが、少なくとも留学生に向けて発信する必要はないと思います。
逆に日本語を翻訳したことで、本来あるべき情報が発信されないということもあります。たとえば金沢大学であれば、日本人なら金沢という場所がどういうところかなんとなくイメージできるかもしれませんが、日本のことをよく知らない外国の人からすれば、都会なのか田舎なのか、暑いのか寒いのか、東京からどのくらい離れているのかなど、まったくわからないでしょう。海外の人に向けて大学を紹介するのであれば、加賀藩のことよりそういうことを発信するべきでしょう。
大学のWebサイトで自動翻訳はまったく不要
自動翻訳は日本語サイトを翻訳するサービスですが、大学のサイトではまったく不要だと思います。日本人向けの内容を翻訳しただけでは外国のユーザーには伝えたいことが伝わりません。そもそも最近ではGoogle翻訳やDeepLなどすぐれた翻訳サービスがあるので、日本語サイトを読みたければそういうサービスを利用すれば事足ります。
自動翻訳は自治体のWebサイトでは必要なものだと思います。日本国内に住んでいても日本語を読めない人はたくさんいますし、そういう人に向けてリアルタイムで情報を発信するためには、自動翻訳を使うのがいいでしょう。自治体のサイトはそもそも日本人に向けて発信されていることを、日本語がわからない人にも発信する必要があるので、自動翻訳でいいのです。
正しい大学の多言語サイト
日本語サイトとは切り離して考える
日本語サイトを翻訳する、ということをまずやめる必要があります。留学生が対象であれば、留学生に向けた内容のサイトを日本語で作り、それを翻訳します。日本語サイトのようなボリュームは必要ないでしょう。大学の紹介や教育・研究の紹介、それから生活や文化の紹介など、必要最低限の内容で構成する。ただし学長メッセージなどはそれ用に原稿を用意する必要があります。在学生紹介も留学生がいいでしょう。そうやって作ったサイトを多言語化するのです。
おわりに
私たちはWebサイト制作だけではなく、企画・編集から取材・撮影も行っています。なんだかんだと書きましたが、普通に人力翻訳の多言語や、自動翻訳の導入支援も行っていますので、どんな内容でもご相談ください。
公開日:2022年7月1日(金曜日) 更新日:2022年8月16日(火曜日)
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